107店舗を作った経営者が「ブランディングが悪かった」と言った理由 ― 店舗オーナーが持ち帰るべき7つの教訓
「僕のブランディングが悪かった」――3年で150店舗(導入店ベース)、その後107店舗のフランチャイズを作った経営者が、自らこう言い切った言葉です。これはYouTube番組「FC版令和の虎」に159人目の志願者として登場した、株式会社コンパス代表・山本敦彦氏の言葉であり、この動画のタイトルにもそのまま使われています。
私は店舗不動産の実践者として、これまで1000店舗を超える店舗の賃貸借に関わってきました。数字を積み上げてきた経営者ほど、こういう場面で自分の弱点を正直に語ると知っています。だからこそ、この発言を見過ごすわけにはいきませんでした。この経営者が語った言葉の中身には、1店舗の経営者にも通じる普遍的な原則が詰まっています。今回は、YouTubeで公開されたFC(フランチャイズ)ピッチ番組から見えてきた、店舗オーナーが自分の店に持ち帰れる7つの教訓を整理します。
FC版令和の虎159人目・山本敦彦氏とは(3年150店舗→距骨サロン107店舗)
出演したのは株式会社コンパス代表の山本敦彦氏です。中央大学理工学部を中退後、イベント制作会社、通信系の法人営業を経て29歳で独立、横浜でWeb制作会社を経営した経験を土台に、2012年に髪質改善に特化した美容室のフランチャイズを開始しました。ここを3年で150店舗(導入店ベース)まで拡大させています。このうち閉店したのは8店舗でした。
その後出会ったのが、足首にある「距骨」という骨に着目した整体サロンのフランチャイズです。距骨は、かかとの骨の上・脛の骨の下にあり、筋肉の付着がなく自分の意思では動かせない骨だと説明されていました。全体重を受け止めながら重心バランスの制御を担う部位で、施術によってこの骨の状態を整えていくのが「距骨調整」という考え方だと、山本氏と施術の考案者である清水たけし氏は語っています。効果を医学的に断定する話ではなく、あくまで両氏が語る「体を整える」という設計思想として紹介されていました。
このフランチャイズは動画内で去年100店舗を突破したと語られており、現在は107店舗まで拡大しています。そのうち約6割が独立店舗で、107店舗中60店舗が関東1都3県に集中しているといいます。これだけの実績を持ちながら、山本氏は番組内で、フランチャイズ専門チャンネルより先に別のコミュニティへ相談していたことを、自らのマーケティングの敗北だったと振り返っていました。番組では、実績を積み上げてきた志願者に対して、投資家役の出演者たちが厳しい質問を重ねる中で、こうした本音が引き出されていきます。この記事は、この番組(FC版令和の虎)から見える普遍的な学びを、店舗オーナー向けに翻訳したものです。
店舗オーナーが持ち帰るべき7つの教訓
どれも距骨サロンという特殊な業態の話に見えて、根っこは業種を問わず効く原則です。自分の店に置き換えながら読んでみてください。
1. 実力があっても「認知と相談先の設計」を外すと埋もれる
107店舗を作った経営者が口にしたのは、成功の自慢ではなく認知と相談先の設計の失敗でした。良い商品を持ち、実際に数字も作っているのに、どこで見つけてもらうか、誰に相談するかを間違えると、実力は世間に伝わりません。これは規模の大小を問わず起きます。私が店舗の賃貸借に関わってきた中でも、良いメニューと高いリピート率を持ちながら、発信と相談先の設計を後回しにしたまま、近隣の同業に埋もれていった経営者を何人も見てきました。商品力と認知力は別の筋肉です。どちらか一方だけを鍛えても、店は資産に育ちません。良い立地に良い店を構えても、その存在が伝わらなければ、通りすがりの人にしか気づいてもらえないのと同じです。「良い店を持っているのに、なぜかお客様が増えない」と感じたら、まず疑うべきは接客でも価格でもなく、この認知と相談先の設計です。
2. 0→1の開拓は、検索ヒット0からでも始められる
山本氏は距骨サロンを始めた10年前、この言葉でGoogle検索してもヒット数はゼロだったと語っています。人間の体にある骨の話であっても、誰も探していない情報は存在しないのと同じだと。それでもコツコツと発信と実績づくりを続けた結果、今では距骨調整を目的に来店する客が約3分の1を占めるまでになったといいます。0→1の開拓には即効性がありません。需要をゼロから耕す仕事は、初速の悪さに耐える覚悟とセットです。自店の強みが「まだ誰も検索していない領域」にあるなら、それは弱みではなくチャンスです。多くの店舗オーナーは、検索結果が少ないことを需要がない証拠だと勘違いしますが、実際には競合が参入していないだけということも少なくありません。検索されない領域を耕す作業は地味ですが、10年後にその市場を最初に作った店として名前が残るのは、途中でやめなかった店だけです。
3. あえて増やさない経営という選択
このフランチャイズは新規加盟の募集をコロナ前から弱め、コロナ以降は完全に停止し、以後は既存エリアでの増店のみを続けています。理由は明快で、「集客を担保できる分だけしか出店を許可しない」という自制です。番組内でも「うまくいかないかもしれないから、あえて止めている」という言葉がありました。私が店舗の賃貸借に関わってきた中にも、勢いに乗って需要を超えるペースで出店を続け、後から見れば明らかに商圏が重なっていた店舗同士が売上を食い合い、閉店に追い込まれた経営者がいます。出店できる資金と、出店していい需要は別物です。急拡大は経営者にとって甘い誘惑ですが、増やせるのに増やさない判断ができるかどうかが、経営の成熟度そのものです。「今出せば儲かる」という声が大きいときほど、本当に出すべきかを一度立ち止まって確認する価値があります。
4. ドミナント出店は、立地戦略として理にかなっている
107店舗のうち60店舗が関東1都3県に集中している事実は、偶然ではありません。近隣エリアに管理がしやすい場所へ増店が集まったと山本氏は説明していました。これは店舗不動産の実践者として私が常々伝えている「立地は個別最適ではなくエリア全体で設計するもの」という考え方と一致します。私がこれまで関わってきた1000店舗を超える賃貸借の中にも、1店舗ごとの立地条件だけを見て、既存店との距離や商圏の重なりを検討しないまま近くに2店舗目を出し、結果として自社同士で客を奪い合い、両方とも家賃を賄えなくなって撤退した例が少なくありません。多店舗展開は、1店舗の良し悪しの足し算ではなく、エリア全体の設計図として描けるかどうかで結果が変わります。新しい店を出す前に、既存店の商圏地図を広げて重なりがないかを確認するだけで、防げる失敗はかなりあります。賃料交渉や契約更新のタイミングでも、周辺に同じ業態がどれだけ出店しているかを把握しているかどうかで、次の一手の精度が大きく変わります。
5. 技術者とプロデューサーは、役割を分けたほうがいい
このフランチャイズには、施術を考案した清水たけし氏と、事業を組み立てる山本氏という2人の役割が存在します。番組内では審査側から「山本さんはプロデューサーではないか」と鋭く指摘され、山本氏自身も「そうです、プロデューサーです」と認めていました。技術と理念を語るべきは清水氏ではないかという指摘も飛んでいて、実際に清水氏は、ベッドの上での施術だけで終わらせず日常の中にこそ原因が隠れているという趣旨のことを、予防医療の考え方として自分の言葉で語っていました。技術力の高い人がそのまま経営や発信の矢面に立つと、理念がうまく言語化されないことがあります。逆に、事業を組み立てる側がすべてを担おうとすると、現場の声が本部に届きにくくなります。技術と発信、どちらも自分だけでやろうとする店主ほど、この分業の壁にぶつかります。1人で内装も接客も広告も抱え込んでいる店舗ほど、実は誰かに任せた方が伸びる部分を持っています。今日から任せられる小さな一つを見つけてください。
6. 安売りではなく、単価で集客する
安さで人を集める店は、安さでしか選ばれません。山本氏は前職の美容室フランチャイズ時代、ホットペッパーのクーポンと初回大幅割引によって単価が下がり、渡り歩くだけの客が増えてしまうという業界課題に直面していました。そこで単価を上げる手段として、当時まだ普及していなかった柔らかいストレート技術をメニュー化し、全国の美容室に単価アップの解決策として広めています。距骨サロンでも同じ発想が貫かれていて、単価を取って悩みの深い客を送り込めば送られた側はありがたいだけだ、という設計です。値引きで集めた客と、悩みの深さに応じた単価で来た客とでは、その後のリピート率が根本的に違います。しかも安売りで数だけを集めた店は、客単価が下がった分だけ売上に対する家賃の重みが増し、繁盛して見えても資金繰りが細っていきます。家賃は毎月動かせない固定費です。単価を落とした集客は、その固定費を回収しにくい体質を自分から作ってしまう行為だと考えたほうがいい。安さで数を追う前に、悩みの深さに見合った単価を取れる商品設計ができているかどうかが、リピートと収益の両方の土台になります。
7. 他業種の課題に、自分の商品で刺す
あなたの商品は、本当に同業の客にしか売れないものでしょうか。距骨サロンの初期の広がり方は、整体サロンではなく整骨院への「メニューフランチャイズ」からでした。整骨院は保険診療と施術で売上を作る一方、自費サービスを強化したいという業界課題を抱えています。そこに外反母趾や巻き爪といった具体的な症状を改善するメニューとして距骨調整を導入したことが、初期の広がりを作ったのです。自分の商品を「誰に売るか」を考えるとき、自業種の中だけで顧客を探すのではなく、隣接業種が抱えている課題に自分の商品を当てはめられないかを考える視点は、多くの店舗が見落としています。自分の店の中だけで悩んでいる経営者ほど、隣の業種の悩みに目を向けると、思わぬヒントが見つかります。
自分の店を「資産」にするために
7つの教訓に共通しているのは、どれも派手な戦略ではなく、地味な自制と設計の積み重ねだということです。増やせるのに増やさない、目立つ場所ではなく本質的な相談先を選ぶ、技術と発信を分ける、安さではなく単価で勝負する。どれも今日から着手できることばかりで、資金力や特別な才能を必要としません。
実力があるのに埋もれている店舗を、私はこれまで数え切れないほど見てきました。多くの場合、原因は商品力の不足ではなく、認知と相談先の設計、そして立地とエリア戦略の甘さにあります。107店舗を作った経営者ですら、これらを外していたと自ら認めています。まして1店舗、2店舗の経営者であれば、なおさら誰かに相談しながら設計を組み直す価値があります。
売上は日々の努力で伸ばせますが、店を「資産」として次の世代や次の出店へつなげられるかどうかは、こうした地道な設計の積み重ねにかかっています。派手な成功談よりも、こうした自制と分業の話のほうが、実際の経営にはよほど役に立ちます。7つのうち、まず1つだけでいいので、今の自分の店に当てはめて考えてみてください。それだけでも、次の一手の精度は変わってきます。
具体的に何から始めればいいか迷うなら、まずは自店の商圏地図を一枚描いてみてください。半径何キロに同業が何店あるのか、自分の店はどんな悩みを持つ客に選ばれているのか、その単価は安売りに支えられていないか。この三つを紙に書き出すだけで、今回の教訓のうち立地・単価・認知のどこに自店の穴があるのかが見えてきます。
自分の店を一時の売上ではなく、長く残る資産として育てたいと考える店舗オーナーの方へ。店舗経営者倶楽部では、こうした立地・出店・多店舗展開の実践知を、実際の事例をもとに共有しています。
出典: FC版令和の虎(YouTube)で公開された、株式会社コンパス・山本敦彦氏のピッチより(https://youtu.be/ssmPnxenRkw)
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