「それは不動産投資では?」全投資家に詰められた志願者から、店舗オーナーが学ぶべき7つの教訓
これは不動産投資ではないか、なぜフランチャイズにするのか。志願者の説明は、開始早々にそう切り込まれました。
しかも今回は、主催者が不在という異例の回でした。志願者は、代役を立てた審査側の投資家たちから、逃げ場のない1時間の追及を受けることになりました。
私はこの回を見ながら、正直「これは店を構えるオーナーにこそ見てほしい」と思いました。舞台はホテル事業のフランチャイズですが、突きつけられている問いは、飲食でも美容でも整体でも、店舗を経営するすべての人に刺さるものだったからです。今日は、そこから店舗オーナーが自店に持ち帰れる7つの教訓を、私自身の店舗不動産・融資・立地の実務経験を交えてお伝えします。
事例の概要 空き家を子連れ向けホテルに変えるビジネス
志願者は吉岡良太さん、36歳、愛知県在住です。大学卒業後に高校教員として数年勤め、一般企業への転職を経て空き家再生事業を手がけ、その後不動産会社を設立、宿泊事業へと進んできました。事業内容は、空き家を土地建物ごと購入してリノベーションし、子連れ家族が楽しめる宿に転換するというもので、ブランド名はOYADOYA HOTELです。現在は愛知県・岐阜県で施設を運営し、新規施設も準備中とのことでした。
原体験は、小学2年生の娘さんとの旅行です。キッズスペースのあるホテルに泊まったところ、娘さんが1日中楽しそうに過ごしてくれた。しっかりブランド化された子連れ向け施設が少ないことに気づき、これを全国展開したいと考えるようになったといいます。
収益設計としては、フルサポート委託の手数料が20%、オーナーの手元利回りは10〜15%と想定されていました。加盟金は200万円です。この利回りの高さが、審査ではむしろ「実質は不動産投資ではないか」という追及を呼び込むことになりました。
審査は序盤から厳しいものでした。投資家の一人がまず突いたのは、これは実質、不動産投資ではないか、なぜフランチャイズにするのか、という一点です。吉岡さんは、不動産の目利き、運営管理、ブランド力の3つを併せ持つ会社は少ないという点を強みとして説明しましたが、その説明の抽象度を指摘され、具体で言い直すよう繰り返し求められました。集客実態についても、自社サイト流入が80%を超える施設もあるという説明に対し、追及の結果、ほとんどの施設はプラットフォーム集客がメインだと認める場面もありました。
結果として、主催者不在のまま、審査に立った投資家全員が出した札は「学校」でした。フランチャイズ経営を学び、作戦会議をしてから磨き直すという判定です。全員が全面協力する形ではなく、いったん持ち帰って練り直すべきという厳しい着地でした。この温度差そのものに、店舗経営の本質が詰まっていると私は感じました。
教訓1 店舗経営は「ハコを持つこと」と「稼ぐこと」が別物だと心得る
投資家たちが最初から最後まで突きつけていたのは、これは不動産投資ではないかという一点でした。物件を仕入れ、リノベーションし、貸す。ここまでは不動産賃貸業の延長線上にあります。事業として稼ぐには、そこに運営力とブランドという上乗せがなければなりません。
これは店舗経営にもそのまま当てはまります。良い立地に良い物件を構えただけで満足していないでしょうか。ハコを用意することと、そのハコで日々お客様に選ばれ続けることは、まったく別の努力です。私自身、店舗賃貸借1000店舗に携わってきましたが、物件が決まった瞬間に安心してしまうオーナーを何人も見てきました。開業はスタートラインであって、ゴールではありません。物件を持つことに満足せず、そこから毎日どう稼ぐかを問い続けてください。今日からできるアクションは、自店の売上のうち何割が「立地の力」で何割が「運営の力」なのかを、一度分けて考えることです。
教訓2 店舗オーナーの「当たり前」は具体で言語化しないと強みにならない
吉岡さんが、オーナーさんとしっかり向き合っていくことが強みだと語ったとき、投資家からは、それは具体的に何を指すのか、と即座に問われました。基準が高い人ほど、自分がやっていることを当たり前だと思い込みがちです。その当たり前は、外から見た人には伝わりません。具体的な言葉にして初めて、強みとして認識されます。
店舗経営でも同じことが起きています。接客に力を入れている、品質にこだわっている、という言葉だけでは、他店との違いは伝わりません。何分以内に声をかけるのか、原材料をどこからどう仕入れているのか、どんな基準で不合格品を弾いているのか。自分の中では当たり前すぎて説明を省いてしまっていることこそ、実は最大の武器になり得ます。自店の「当たり前」を今日中に5つ書き出し、他人が検証できる言葉に変換してください。
教訓3 見栄えの数字と実態のギャップを直視する
吉岡さんは当初、自社サイト流入が80%を超える施設もあると説明しましたが、投資家に問い詰められると、ほとんどの施設はプラットフォーム集客がメインだと認めました。都合の良い一部の数字を、全体像のように語ってしまう。これは誰にでも起こり得ることです。
さらに動画では、OTA(予約プラットフォーム)経由の宿泊者の約6割が外国人だという実態も語られていました。集客経路の内訳を正しく把握していなければ、こうした比率すら見えてきません。手数料はOTA経由が約15%、自社サイト決済なら約3%で済むという説明もありましたが、この差額こそ、誰が集客の主導権を握っているかを表す数字です。店舗経営でも、常連が多い、口コミで広がっている、という感覚は、実データで裏を取らないと危険です。予約や来店のうち、どの経路が本当に主導権を握っているのか。集客のプラットフォームに手数料を払い続けている限り、価格決定権も顧客リストも自分の手元には残りません。感覚での自己評価はいったん脇に置いてください。直近3ヶ月の集客経路を紙に書き出してください。集客構造は数字にしか出ません。
教訓4 店舗コンセプトは話を広げすぎず一点を尖らせる
投資家の一人は、話が広がりすぎて不動産投資と事業の話が混在し、結局何をやっている会社なのか分からなくなっている、と指摘しました。別の投資家も、子連れ特化という原体験に基づく尖った切り口があるのに、収益性や融資の話に引っ張られてコンセプトがぼやけてしまっている、と続けました。
店舗経営でも、あれもこれもとメニューやサービスを増やした結果、何屋なのか分からなくなっているお店を数多く見てきました。原体験や創業の動機に基づく尖りこそ、価格競争に巻き込まれない本来の武器です。広げる勇気より、絞る勇気が問われる場面は必ず来ます。「地元で愛される店」のような曖昧な看板ではなく、「子連れの母親が平日の昼に立ち寄れる店」のように、誰の何のための店かを一言で言い切れるところまで削ってください。今月予定している新規メニューや新サービスの追加をいったん止め、既存の看板商品にどれだけ磨きをかけられるかを先に考えてください。
教訓5 店舗オーナーはスペックより「なぜやるか」で語る
不動産に精通している、運営管理ができるという説明を重ねても、審査側の反応は鈍いままでした。むしろ投資家の一人からは、なぜこの事業を始めたのか、その背景や思いを語った方がいいと助言されています。実際に吉岡さんは、娘さんとの旅行でキッズスペースのあるホテルに泊まった原体験を語る場面がありました。機能や実績の説明よりも、なぜそれをやろうと思ったのかというストーリーの方が、聞き手の記憶に残ります。
自店の発信でも、メニューの説明や価格の説明ばかりになっていないでしょうか。なぜこの店を始めたのか、なぜこの商品にこだわっているのか。次回投稿の冒頭1行を、価格やメニュー名からではなく、開業を決めた瞬間の一場面から書き始めてください。そのうえで、これまでの投稿と比べて保存数やコメント数がどう変わったかまで、必ず数字で確認してください。理由から語ったかどうかは、感想ではなく反応の数字で検証できます。
教訓6 余っている資源・社会課題に商品を当てる
審査の終盤、投資家たちは、全国の空き家という社会課題に振り切った方がいいと助言しました。空き家の相談窓口を作り、地域の不動産会社を窓口にする。処理に困っている資源や、困っている人にこそ、需要のサインがあるという指摘です。
一方で別の投資家からは、知人が民泊運営で約20億円の負債を抱えて倒産したという厳しい警告もありました。市場の追い風だけを見て規模を急拡大すれば、オーナーの数百万から数千万円という重いお金を扱う以上、経営が急変した瞬間に取り返しがつかなくなります。社会課題に寄り添う発想と、リスクを慎重に見積もる発想は、両方そろって初めて事業として成立します。自店の商品やサービスも、隣で余っているもの、困っている誰かに当てられないか考えてください。ただし規模を広げる前に、最悪のケースでどこまで損失が出るかを先に計算しておくべきです。
教訓7 店舗経営は立地・資金調達・出口を先に設計する
ここは私の専門領域とも重なる部分です。吉岡さんは総額約2.5億円を融資中心で調達し、宿泊11施設と賃貸30部屋を保有しています。実績のない新規参入者にとって融資のハードルは高く、参入したいという相談は来るものの、資金や融資の問題でできない人が8割から9割いると語っていました。旅館業許可を取得すれば365日運営できますが、民泊は年180日(来年からはさらに短縮見込み)という制限があり、事業として稼ぐには法規制の違いを理解した物件選びが前提になります。また、これまでに撤退した物件が3件あり、そのうち1件は予算をかけずに施設を作ってしまったために、思うように売上と集客が伸びなかったと振り返っていました。
私が店舗オーナーに繰り返し伝えているのも、まさにこの部分です。立地は感覚で選ばず、資金計画は開業前に融資の現実的な上限を把握してから組み、そして最悪売却しても回収できるかという出口を、開業前の時点で必ず持っておいてください。予算をケチった物件が撤退に追い込まれたという吉岡さんの経験は、店舗経営における立地選定と初期投資の重要性を、そのまま裏付けています。
繁友の総括 自分の店を「資産」に変えるために
今回の審査で投資家たちが繰り返し問うていたのは、加盟しなければ実現できないことがあるのか、という一点でした。物件を持つだけなら、フランチャイズという仕組みは必要ありません。加盟しなければできないことがあって初めて、フランチャイズという形は成立します。
これは店舗経営そのものへの問いでもあります。自分の店は、立地と物件だけで成立していないでしょうか。それとも、そこに自分にしかできない運営やブランドの上乗せがあるでしょうか。物件は消耗していきますが、運営力とブランドは積み上げれば資産として残ります。良い立地を見極める目、無理のない資金計画、そして最悪の事態でも回収できる出口設計。この3つを開業前に揃えておくことが、店を「持っているだけの箱」ではなく「稼ぎ続ける資産」に変える分かれ道です。私は現場で、この分かれ道を何度も見てきました。
出典
この記事は、YouTube「FC版令和の虎」で公開されたOYADOYA HOTEL・吉岡良太氏のピッチ動画(https://youtu.be/gTgT140Hi6Q)を一次情報として、店舗経営者向けの学びとして再構成したものです。
店舗経営における立地選定・資金調達・出口設計の考え方は、店舗経営者倶楽部でも折に触れてお話ししています。同じ問いを持つ店舗オーナー同士が、日々こうした事例を持ち寄って検証している場です。
店舗経営の「独学」を、今日で終わりにする。
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