【FC版令和の虎160人目】美容室VCの坂口貴徳氏に虎が刺した「何でも屋」の急所

スタッフに「これ何のために入れたんでしたっけ」と聞かれて答えに詰まる。

予約システムやLINE公式、口コミ管理ツールなど、入れた数だけ毎月の固定費が積み上がって、結局どれも中途半端にしか使えていない。私は店舗の賃貸借に関する業務を1000店舗以上手がけてきた中で、この手の「何でも揃った」話を何度も見てきました。

今回取り上げるFC版令和の虎160人目、坂口貴徳氏のピッチも、まさにこの「何でも入れたけど使いこなせていない」という店舗経営の急所を、審査側の虎たちがそのままえぐり出した回でした。

坂口氏は39歳、美容室を経営しながら美容業界向けのボランタリーチェーン(VC)を設立していて、本人はこれを独自に「CVC」と呼んでいます。番組内では「今160社に加盟いただいている」と語っていました。

求めたのは本部構築と加盟店開発のサポートです。ピッチの主旨は「CVCで美容業界の産業革命を起こしてホリエモンを見返したい」というもので、会員を増やして規模を拡大していく狙いも番組の中で語られていました。審査側の一人はすかさず「見返す、じゃなくて見直してもらう、で行こう」と諭す場面がありました。

私は店舗不動産と出店を専門にしている人間で、美容業界のボランタリーチェーンやCVCそのものに口を出せる立場ではありません。審査側が坂口氏に浴びせた指摘は、業種を問わず「複数店舗を経営している・これから拡大する」すべてのオーナーに刺さる内容でした。ここから7つ、最後に店舗不動産の視点を1つ足して整理していきます。

目次

美容室ボランタリーチェーンに学ぶ「何でも屋は選ばれない」店舗経営の急所

番組内で一番刺さったのはここでした。坂口氏のCVCは共同仕入れ、教育の標準化、ARグラスでの技術教育のシェア、企業と美容室をつなぐマーケットプレイス、Discordでの案内、カスタマーサポート、物件契約のサポート、福利厚生、決済手数料の低減までを一つのサービスに詰め込んでいます。審査側は「何でも屋になりすぎている」「結局あなたは何の人なのか分からない」と指摘しました。詰め込みすぎて、ユーザーがついてきていない、と。

これ、自店に置き換えるとよく分かります。「うちは技術も接客も価格も雰囲気も全部いい店です」と言う店ほど、実は何も言っていないのと同じなんですよ。お客さんが他人に自分の店を勧めるとき、頭に浮かぶのは「なんでもいい店」ではなく「あの一点がすごい店」という一言です。カットならあの人、眉毛ならあの店、夜遅くまでやってる店。この一言に自店の名前が乗るかどうかが勝負であって、要素を足せば足すほど、逆にその一言は薄まっていきます。

明日やる一手はシンプルです。自分の店を一言で言うとしたら何屋かを紙に書き出してみてください。「〇〇と△△と□□に強い店」と3つ以上並んだら、それはもう選ばれない側に片足を突っ込んでいます。削れる要素はないか、スタッフに聞くところから始めてみてください。

月10万円払っても使いこなせない――美容室CVCが突きつけた「導入と活用は別物」

番組では、既にCVCに加盟しているメンズ美容室FC本部の代表(17店舗を展開)が紹介されていました。月10万円を払って加盟しているものの、正直に「機能やサービスが多すぎて使いこなせていない」と告白していたんです。審査側もこの現実を重く受け止め、カスタマーサポートの強化を課題として指摘していました。

自分の店にも同じことが起きていないか、考えてみてください。予約システムを入れた、LINE公式を作った、口コミ管理ツールを契約した、AIの電話応対も導入した。私も色んな店舗オーナーの話を聞きますが、「入れて満足して終わっている」ケースが本当に多いです。月額料金は毎月引き落とされているのに、誰も触っていないアカウントが放置されている。これはツールが悪いのではなく、導入する時点で「誰が」「どの業務で」「いつ使うか」を決めていないことが原因です。

明日やる一手は棚卸しです。今契約しているツール・サービスを全部書き出して、それぞれ「先週、誰が何回使ったか」を横に書いてみてください。空欄が並ぶなら、それは経費として垂れ流している月額費用です。新しいツールを検討する前に、今あるものを本当に使い切っているかを確認する方が先です。

美容室ディーラー1800社のうち知っていたのは3社――共同仕入れが埋める情報格差

坂口氏は「独立した当初、業界に約1800社あるディーラーのうち、自分が知っていたのはたった3社だけだった」と番組内で語っていました。情報の非対称性のせいで、お互いに機会損失が生まれていた、という趣旨です。CVCの共同購入インフラは、この情報格差を埋める仕組みとして設計されています。

今の取引先が唯一の選択肢だと思い込んでいませんか。長年の付き合いだから、紹介されたから、という理由だけで価格交渉をしないまま仕入れを続けている店は多いです。取引先を変える手間を惜しんで、毎月の粗利を静かに削られている。店舗経営における原価・仕入れの話そのものです。

明日やる一手は、今の主要な仕入れ先以外に、あと1社だけ見積もりを取ってみることです。乗り換える必要はありません。他社の価格を知っているだけで、今の取引先との会話の質は変わります。知らないままでは、交渉のテーブルにすら着けません。

加盟金無料のボランタリーチェーン――値付けを下げすぎると事業は続かない

CVCの加盟金は無料です。月々の会費はかかりますが、加盟時にまとまって払う加盟金はゼロにしている、ということですね。番組ではこの点にも指摘がありました。ハードルを下げて加盟を増やす狙いは分かるけれど、加盟金を無料にすることで支援する側・本部側に入口の利益が入らない構造になってしまう。これでは事業として続かない、という趣旨の指摘です。

自店のメニュー表にもそのまま当てはまる話です。無料や激安は入口を広げますが、その分だけ店に利益が残らない構造を自分で作ってしまいます。加盟金ゼロで加盟社を集めても、支援する側にお金が回らなければ応援を続けられなくなるのと同じで、値段を下げて集めたお客さんの数と、値段を守って残る利益、どちらが自分の店を長く続けさせてくれるかを先に決めておく必要があります。

明日やる一手は、店の中で一番安いメニューを1つ選ぶことです。その値段をいくら上げるか、上げる代わりに何を足すかを、その場で紙に書き出してください。書けたら、その1品だけ来月から値段を変えてみてください。

ARグラスで教えられるのは「動き」だけ――美容室の技術教育でテンションは伝わらない

坂口氏のCVCはARグラス(Xreal)を使って技術教育をシェアする仕組みを持っています。動きの再現には有効だけれど、審査側からは「テンション、つまり力加減までは伝わらない」という指摘も出ていました。ツールで代替できる部分と、リアルでしか伝わらない部分がある、という話です。

属人化を解消したいと考える店舗オーナーは多いです。マニュアルを作る、動画で撮って共有する、これ自体はとても正しい。ただし、それで全部が解決すると思い込むと危険です。動きは動画で伝わっても、力加減や間合い、お客さんの反応を見ながらの微調整は、結局は横について教えるしかない部分が残ります。

明日やる一手は、自店の教育で「動画やマニュアルで伝わる部分」と「実際についてしか伝わらない部分」を分けて書き出してみることです。全部を仕組み化しようとして中途半端になるより、この線引きをはっきりさせた方が教育の効率は上がります。

フランチャイズとボランタリーチェーンの違い――SV不在の緩い組織は一部しか伸びない

CVC(ボランタリーチェーン)は、通常のフランチャイズと違って強制力がなく、SV(スーパーバイザー)のような巡回指導の機能もありません。ボランタリーチェーンは一般に、各店が独自の屋号や看板を保ったまま緩やかに連携する仕組みです。審査側は、この緩さゆえに「伸びるのは一部の店だけになりがちだ」と指摘していました。

これ、複数店舗を持つオーナー、あるいはスタッフに現場を任せているオーナー全員に関係する話です。「本人のやる気に任せる」「あとは現場の判断で」という体制は、聞こえはいいけれど、結局は一部の優秀なスタッフ・優秀な店舗だけが伸びて、それ以外は平均に沈んでいきます。定期的に見て声をかける仕組みがなければ、組織は自然と緩い方に流れていきます。

明日やる一手は、店舗・業務ごとに「見る人」「見る頻度」「声をかける日」を1行ずつ埋める表を紙に作ることです。空欄が残ったところが、緩い組織のまま放置されている場所です。

令和の虎が美容室CVCに指摘した急所――コスト削減より先に「客が降ってくる仕組み」への投資を

CVCには、共同広告からの振り分けポータルという構想があって、番組時点ではテスト中だと語られていました。審査側は「本部から顧客が降ってくる機能があれば、加盟者はもっと積極的に活用するはずだ」と指摘していました。コスト削減のメニューがどれだけ並んでいても、加盟者が本当に欲しいのは売上を作ってくれる仕組みだ、という話です。

店舗経営における投資の優先順位の話でもあります。コストを削る施策は分かりやすいし、導入もしやすい。コストがどれだけ下がっても、客が来なければ意味がありません。仕入れの安さ、決済手数料の低さ、福利厚生の充実、どれも大事ですが、それらは売上が立った後に効いてくる話です。何に投資すべきかを考えるとき、コスト削減と集客導線への投資を、同じ優先順位で並べてはいけません。

明日やる一手は、今月使ったお金を「コストを下げるための支出」と「客を連れてくるための支出」に分けて書き出してみることです。前者ばかりに偏っているなら、それは順番を間違えています。

ちなみにこのピッチの結末として、虎たちは本部構築・加盟店開発への全面協力を確約しています。何でも屋と指摘されながらも、坂口氏は少なくとも協力してくれる仲間を勝ち取ったわけです。ここから先は、私自身の専門領域である店舗不動産の話に移ります。

店舗不動産の視点――安さの共同購入より先に、立地で負けていないか

ここまでは私の専門外の話として書いてきました。ここからは店舗不動産、私が長年やってきた領域の話です。ここだけは断定で言わせてもらいます。

CVCが目指している「共同購入で安く仕入れる」という発想自体は間違っていません。ただ、店舗経営者にとって、仕入れよりもはるかに大きい固定費が一つあります。物件です。家賃、初期費用、内装工事費、契約更新の条件。これらは仕入れの原価とは桁が違う金額が動きます。にもかかわらず、多くの経営者が物件選びを「早く決めたい」「紹介されたから」という感覚で済ませてしまっています。

「共同購入的な安さ」を仕入れに求める発想は分かりますが、立地はそもそも共同化できません。あなたの店が出す物件は、あなたの店だけのものです。安さより先に確認すべきは、その立地がそもそも売上を生む場所かどうかです。競合が多いエリアを避けて、誰もいない場所を選んでしまう経営者は多いですが、競合がいるということは、そこに需要があるという証拠でもあります。空白地に出て、静かに撤退していった店の後始末まで、私は付き合ってきました。

物件は、契約条件次第で初期費用も家賃も大きく変わります。店舗の賃貸借に関する業務を1000店舗以上手がけてきた中で、契約条件を見直しただけで負担が大きく下がったケースを何度も見てきました。仕入れの安さで満足する前に、まず物件の契約条件を見直してください。ここだけは、私の専門領域として言い切っておきます。

令和の虎160人目のピッチに学ぶ、明日店に着いたらどれか1つだけ

坂口氏のピッチに審査側がぶつけた指摘は、業界の話でも、坂口氏個人の話でもありません。何でも屋になっていないか、入れたツールを使い切っているか、仕入れの情報格差を放置していないか、値段を下げすぎていないか、属人化の限界を見誤っていないか、緩い組織のまま平均化していないか、コスト削減と集客への投資を混同していないか。そしてもう一つ、店舗経営者にとって一番動く金額である物件を、安さの発想だけで決めていないか。

全部を一気に見直す必要はありません。明日、店に着いたら、この中のどれか1つだけでいいです。番組の中で坂口氏は「見返したい」と言って、審査側から「見直してもらう」に言い直されました。経営も同じで、誰かを見返すためじゃなくて、見直すところからしか数字は変わりません。

今契約しているツールを1つ棚卸しする。仕入れ先の見積もりをもう1社取ってみる。物件の契約条件を一度読み直す。どれか1つ、今日中に。


※本記事は「FC版令和の虎」160人目・坂口貴徳氏の回(YouTubeチャンネル『令和の虎Second』)を題材に、店舗経営者の視点で私なりに読み解いたものです。番組内の発言には要約・意訳を含みます。

店舗経営の「独学」を、今日で終わりにする。

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